72: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:50:11.83 ID:OJA0wgUK0
「プロデューサー」
私の声を契機にして、プロデューサーは慌てて神妙な面持ちを作った。
ソファーの横に座る彼の方へと体を向ける。
――彼は依然、テレビの方を向いている。
ふとその場面が、私たちの関係をよく表しているその場面が、あまりに象徴的に思えた。
私が彼の方を向いているときでも、彼は明後日の方向を向いている。
私の方を見向きもせずに、申し訳程度に耳だけ傾けて、テレビをぼんやり眺めている。
いつだって彼は、私から目を逸らしていた。近づいてみても、目を見てみても、彼の目に私の全てが映ることはない。
早い話が、私は認められたかったのだ。
アイドル双葉杏としてでもなく、何をするにつけてもものぐさな私としてでもなく、何に対しても無気力な私としてでもなく、全てにおいて無関心な私としてでもなく。
子供っぽい私としてでもなく、子ども扱いされるのを嫌う私としてでもなく、あるいは、口ではあんなことを言いながらも、心の底ではアイドルを楽しんでいる私としてでもなく、それらを全て――全て含んだ、一人の人間として、認められたかったのだ。
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