双葉杏「透明のプリズム」
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71: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:49:31.37 ID:OJA0wgUK0







私と彼の間に、本当に大事な話をするときは事務所で、という暗黙の了解があった。
私はいつもの時間帯――土曜日の夕方だ――に、彼の部署の部屋を訪れていた。
この時間帯は暇だと言っていたけれど、でもその割にはいつも私の話を聞く片手間で仕事を処理していたりした。
しかしこの日は本当に暇らしく、彼はもう開き直ってテレビを観ていた。


土曜のこの時間のテレビって、こう、ノスタルジックだよな。
確かに。
どうしてだろう。
小学生向けのアニメとか放映してるからじゃないの。
……百年来の謎が解けたよ。
大げさだよ。


プロデューサーはどことなく、本質的な会話を避けようとしていた。
あるいは、話を始めるタイミングの決定権を私に譲渡しようとしていたのかもしれない。
いずれにせよ、私はなかなか例の件の話――選択の話と、彼の行動の真意の話――に踏み込めないでいた。
私に固有の面倒臭がりな性質が、このままテレビを観れればそれでいいや、という投げやりな感情に針を振れさせていた。

私が今日この七階の部屋を訪れたのは、彼の真意を聞き出すためだ。
彼が嘘を吐いてまで隠したかったもの。
私は、概ね答えに当たりを付けていた。

その仮説は一度は否定されてしまったけれど、否定材料が嘘だと分かった今、やはりそれが真実なんじゃないだろうか、という確信に近い疑いが強まっていた。
そして、もしその仮説が正しいのなら。
彼はまだ、目の前にいる私から目を逸らしていることになる。




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