69: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:48:25.34 ID:OJA0wgUK0
☆
私は騙されていたんだ。
プロデューサーを騙したつもりが、逆に騙し返されていて、しかも私は家に帰るまでそれに気付くことが出来なかったんだ。
プロデューサーは、私の罪悪感と同情の心を的確に刺激して、私から、彼の嘘の背後に匿われている独善を遠ざけていた。
それなら、彼の謝罪の意味も察しがつく。
あれは、直前の私の言葉と同じで、嘘を吐いてごめん、という意味だったんだ。
なんて大人げないんだ。
嘘を吐くなんて、許せない。
最初は彼に対する怒りや苛立ちが、心の中で赤くめらめらと燃えていた。
でも当時の私は賢いことに、そんな感情を抱いてはいけないことに思い至った。
そのような感情を抱くことが許されるかはまた別問題なのかもしれないけれど、その態度はあまりに自分本位で、論理的でないのだ。
だって、最初に嘘を吐いたのは私だ。
私が嘘を吐いたから、プロデューサーは嘘を吐いたのだ。
そうだ。
私はやり返されただけなのだ。
――それなら彼の嘘には、私に対する報復の意図が含まれていたのではないだろうか?
あのとき彼は、尋常ではない程度に動揺していた。
あれだけ動揺させられて、結局手のひらの上で転がされていただけだと、綺麗に騙されただけだったと思い知らされれば、意趣返しを図るのも無理はない。
彼の嘘は、真意を隠す意図があったことは確かだけれど、それ以上に、彼がやり返したかったからこそ吐かれたものだったのかもしれない。
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