67: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:47:25.10 ID:OJA0wgUK0
騙された。
その言葉がずっと頭の中をぐるぐると回っていた。
あの後帰路についた私は、帰宅してすぐ布団に潜り込んだ。
流石に着替えないとまずいと考え直して、変装用のキャップと眼鏡を外す。
今日のためにクローゼットの奥から引っ張り出して着ていたスプリングコートを脱いで、改めて横になる。
ショックだった。
邪な気持ちに唆されて、人を傷つけてしまった。
似たようなことをした経験はいくらでもある。
人を傷つけてしまったことに気付くたびに、私は一日を思い返して、反省をするのだ。
私は自己嫌悪をいつまでも溜め込んで引きずるようなタイプの人間だった。
例に漏れず、私はその日のことを時系列順に思い出していた。
――こっちこそ、ごめん。
この日のことを思い返してみたときに、初めに違和感を感じたのはその言葉だった。
何か引っかかる。
……ごめん?
あの謝罪の言葉を、私は「勝手に私の思いを決めつけてごめん」だと解釈した。
でもそれは、本当に正しい解釈だろうか?
仮に正しいとして、それなら何故、彼はあんな表情でそれを口にしたのだろうか?
それからはまるで箱の中身をひっくり返したときのように、今日の記憶が次々フラッシュバックしていた。
向かい側に座るプロデューサー。
私のついた嘘。
私の選択。
彼の真意。
謝罪の言葉。
記憶の糸を辿る。
よくよく考えてみれば、おかしな点はまだある。
私に辛い思いをして欲しくなかったという彼の主張。
どう考えても、繋がらない。
私に辛い思いをして欲しくないからというのは、彼が断りなく外堀を埋めていたことの理由になり得るのだろうか?
確かにそれは、彼が自分の担当アイドルとして私を連れ戻したいと思う理由にはなるかもしれない。
しかし、だからといって、勝手に私を連れ戻そうとするのは、明らかにやり過ぎだ。
それは、ただの独善だ。
独善。
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