双葉杏「透明のプリズム」
1- 20
64: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:45:21.25 ID:OJA0wgUK0


私は息を吸い込む。ここからは演技を捨てて、ネタばらしの時間だ。
狼狽と怯えに身体をすっかり乗っ取られてしまっている彼の眼を見て、私は思わずくつくつと笑ってしまう。
あの言葉を言い放つ。大人がよく使う、あれだ。
人類の英知が生み出した、便利なシステムを指す、あの言葉だ。



「プロデューサー。嘘だよ」



そのときのプロデューサーの顔ときたら、見物だった。
大きく開いた目は、冗談じゃないと言わんばかりに瞬きを繰り返していた。
半開きの口から、壊れたラジオのスピーカーのような声が断続的に聞こえる。

彼は混乱していた。

私はそんな彼の混乱が落ち着くのを、笑顔で待っていた。
紙に印刷してそれを顔に貼り付けたような営業スマイルだ。

――少し時間をおくと、彼は微かに冷静さを取り戻して、ああそうなの、とか、理性の欠片が窺えるような言葉を呟いていた。
向かいの席の彼の眼に浮かんでいたものは何であったのだろうか。
騙されたことに対する純粋な怒りだったのかもしれないし、あるいは、散々自分を掻き乱した私の言葉が全て嘘であったことへの安心感だったのかもしれない。
年下の人間に言い訳できない程度に騙されたことへの羞恥もあったかもしれない。
でもそれは、何だって良かった。

私は気を引き締める。
――ここからが本題だ。
手段と目的を取り違えてはいけない。
私はプロデューサーをただ騙して楽しむためにこんなことをやってのけたのではない。それではただの性格の悪い子供だ。
私の目的は、あくまで尋問なのだ。




<<前のレス[*]次のレス[#]>>
117Res/151.02 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice