58: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:40:28.78 ID:OJA0wgUK0
「えっとな、俺はそもそも、アイドルのプロデュースは初めてだから、どう思うもこうもないんだ」
「ただ、何というか、想像よりは楽だよ」
「双葉さんが元より売れっ子だった、ってのもあると思うけど」
彼にとっての初めての担当アイドルが私だということは、私に知らされていなかった情報だった。
その情報が私から遮断されていたのは、おそらく無闇に混乱を招かないための措置だ。
誰だって自分が新人の研修のための実験台にされていると分かれば気分は良くないだろう。
しかしその事実以上に、私はこれが彼の初めてのプロデュースであることが驚きだった。
彼は私の元プロデューサーと比べても引けを取らないぐらいに、いやそれ以上に、あらゆることに落ち着き払った態度で接していた。
ともあれ、私は彼の口から、私に対する恨みつらみに類する言葉が出てこなかったことに、ひとまず安心した。
――数秒遅れて、それが私を傷つけないための嘘であり、彼がただ無理をしているだけであるという可能性に思い至った。
なんせ、大人は嘘を吐くのが上手い。
「本当に?」
「割と本音だけど」
「杏が言うのもなんだけどさ、大変じゃない? よく遅刻とかするし」
「そりゃ、そういうのは困るけど。でも心臓には悪くない」
「逆にさ、心臓に悪いってどんな状況なの」
「えっと」
彼は長考に入る。
赤信号に差し掛かって、彼は車を滑らかに停止させた。
車の奏でる無機質な音が、一層車内の沈黙を引き立てていた。
信号が青に変わるのと同時に、彼は話し始めた。
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