59: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:41:31.51 ID:OJA0wgUK0
「ほら、例えばさ。デビューしたてのアイドルの担当をするとするだろ」
「仮にその子がすごく几帳面な子で、レッスンには十五分前からやってくるし、空いた時間に自主レッスンだったり台本の予習だったりをするような、典型的に真面目な子だったとする」
「そんな子の担当をすることになったらさ、疲れるだろ?」
「仮に俺が適当にプロデュースをしてしまって、そのせいでいつまで経っても大きな仕事を持ってこれないんだとしたら、あまりに報われないだろ。だからそうなった場合、俺は全力でプロデュースをしなきゃいけない」
「責任が大きすぎるんだ。精神的に疲れるし、心臓に悪い」
「今の双葉さんのプロデュースは、精神的に疲れないんだ」
「だから楽なんだよ」
私はその理屈に、妙に納得してしまった。
なるほど確かに、アイドルとしての志が高ければ高いほど、その子のプロデューサーにかかる責任は重大になる。
努力の分だけ報われてほしいと思うのが人情だし、誰だって努力に裏切られた人の顔は見たくない。
その上私は既に、充分にアイドルとして売れていた。
私が今のプロデューサーにかけていた負荷は、責任がのしかかることに起因する精神的負担に比べれば可愛いものだ。
それならば私は、今のプロデューサーのもとを去る必要は無い。そう結論付けて、選択を終えようとした。
その矢先だった。
厄介事はいつだって、思いがけない方向から、突然やってくる。
彼は何の気なしに、こう呟いたのだ。
「それもまぁ、あと二ヶ月で終わりなんだけど」
ちょうどその時、私はスマートフォンを取り出して、時間を確認していた。
それもまぁ、二ヶ月で終わりなんだけど。
その言葉を聞き流そうとして、手放すのを寸前のところで食い止める。
……あと二ヶ月で終わり?
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