双葉杏「透明のプリズム」
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56: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:39:23.52 ID:OJA0wgUK0


私は今のプロデューサーに答えを出してもらおうとしていた。
これは決して不自然な行為ではない。
状況を単純化して考えれば、私の担当プロデューサーが元に戻るか戻らないかというのは、私を含め三人の人間に影響を与えることになる。
勿論それは、私と、私のプロデューサーと、元プロデューサーの三人だ。

元プロデューサーが選択を私に委ねたのは、私に決めて欲しかったからなのだと思う。
そしてその私の出した結論は、どちらでもいい、というひどく差し障りのない答えだ。
それなら、関係者の残りの一人である今の私のプロデューサーに選択権が譲渡されるのは、何ら不思議なことではないのだ。


「ねぇ」


車は滑らかに夜を走り抜けていく。運転席の彼は頭を僅かに左に動かして、私に言葉を続けるよう促した。
やや慎重に言葉を選ぶ。私は本質を突くようなことを回避しなければならなかった。
「元のプロデューサーの担当に戻れるんだけど、どうしたらいい?」だとか、「杏が元のプロデューサーの担当に戻りたいって言ったら、どうする?」だとか、それに類することを言ってはいけなかった。

プロデューサーが私に婉曲的な方法をもって選択の権利を与えたのは、直接的な言葉を使うことができない理由があったからだ。
私が元のプロデューサーの担当アイドルに戻るか否かについて、私情を持ち込んでいることが誰かに知られてしまったら、色々とまずいのだろう。
元のプロデューサーは、私の意志決定を上層部の決定ということにして、穏便に融通を利かせてくれようとしていたのだと思う。


「プロデューサーは、杏の担当をやってて、その、どう思う?」


だからこそ私は、ひどく曖昧な質問から入ることにしたのだ。




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