双葉杏「透明のプリズム」
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51: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:36:50.54 ID:OJA0wgUK0


あんな事件があって、私はずっとひた隠していた内面を赤裸々にされてしまった。
私の内側で燻っていた気持ちをあれだけ言葉にして彼に伝えたのだから、流石に私たちの関係も少しは変わったように思う。
でも彼の私に対する視線はというと、以前とさして変わりがないように思えて仕方がない。

そんなもどかしさや腹立たしさから、私は悪態を吐いた。


「あ、でも、車の運転は新しいプロデューサーの方が上手いよ」


プロデューサーは、へぇ、と他人事のように返事をした。
でも声がわずかに上ずっていて、どうやらショックを受けているらしい、ということが察せられた。
彼は強がっていた。男の人は、劣のレッテルを貼られるのに弱いのだ。
私はさらに、皮肉めいた謝罪の言葉を口にしてみる。


「ごめん」

「謝られると、余計傷つくよ」


くふふ、と笑うと、彼は見るからに落ち込んだようなそぶりを見せた。
畳み掛けたいのをぐっと堪えて、私は手元のクリームソーダのストローを咥える。
折れ曲がったストローは子ども扱いされてるみたいで嫌だけど、身長も座高も低い私にとって飲みやすいのは確かだった。

そんな何も起こりそうにないような起伏のない状況で、彼が何気なく口にした言葉は、あまりに重い意味を持っていた。
今思うに、彼は重苦しい意味を持った言葉を、出来るだけ軽い状況で口にしてしまおうとしていたのだろう。
案ずるより産むがやすし、とよく言うけれど、つまりそういうことだ。


「もしもの話なんだけどさ」

「?」

「俺が杏の担当に戻れるとしたら、どうする?」





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