47: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:33:25.05 ID:OJA0wgUK0
――これは罰だ。
今まで私を無視してきたことへの、罰だ。
私をただのアイドルとしてしか見ていなかったことへの、罰だ。
「プロデューサー、なにか言ってよ」
彼は何も言わない。
うさぎの隙間から見えるプロデューサーは、少し落ち着いたのか、考え込むようなそぶりで俯いていた。
彼の動揺する姿は珍しかった。
記憶をたどってみても、彼の狼狽する姿というのは思い当たらない。
私が遅刻しても彼は笑いながら窘めるだけだったし、逆に喜びを爆発させるようなこともなかった。
とはいえ彼に喜怒哀楽の感情が無いわけではなく、ただ単にその振れ幅が小さいだけだったように思う。
社会人というものは大体がそのように、自分の感情を殺して生きている。
彼の眼をじっと睨んでみる。水晶体の奥には、どんな感情が渦巻いているのだろう。
彼は今、どうにも判別がつかない眼をしていた。
喜びとも怒りとも哀しみとも楽しさともつかない、何色かどうかも分からない感情が眼の奥に浮かんでいた。
「杏」
やがて彼は口を開いた。
澱を振り払うような、鋭い声だった。床を向いていた彼の視線の捉える先が、突然私に移動した。
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