双葉杏「透明のプリズム」
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45: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:32:05.16 ID:OJA0wgUK0







「飽きもせずによく来るよね」


私は開き直っていた。

その週の土曜日の夕方に、プロデューサーの部屋を訪ねた。
ドアを開けると、次の瞬間には突き刺すような西日が視界に入る。
その手前には呆けた顔のプロデューサーが座っている。
開口一番に失礼なことを言うので、うるさいなぁ、とあしらっておく。

私はもはや、プロデューサーに対する感情を隠さずにいた。
当たり前のことだ。
だって私は面と向かって、プロデューサーに会えなくて寂しい、と伝えたのだから。

ずかずかと部屋に入り込んで、ソファーに陣取る。
簡素なテーブルの上には今日も飴玉が山のように積まれてあって、私はゲームセンターにあるお菓子の山を見たときのような、楽しい気分になった。


退屈な日常会話で時間を潰した。
私のCDがどうだとか、逆にプロデューサーの部署がどうだとか、あるいはこの飴はどこで買っただとか、都内の桜がどうだとか。
ある程度話題の選択肢が削られてきた頃合いを見計らって、私はプロデューサーに尋ねる。


「ね、プロデューサー。今度さ、どこか遊びに行こうよ」


澱みなく言い終わって、プロデューサーの顔を窺う。
彼の顔には驚きの表情が張り付いていた。
それは私の予想通りでもあったので、思わず笑ってしまった。


「そんなに驚かなくてもいいじゃんか」

「だって、あの杏が」


彼は文字通り鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
私の想像と寸分違わないリアクションだ。
考えてみれば分かる。
私を、年中無休で休み続けているような、能動性の「の」の字もない人間だと思い込んでいるプロデューサーが、突然その私に自発的な勧誘を受ける。
一種の天変地異だと思われても仕方がない。

私にとっては、これは誤解を解くチャンスだ。
――二度と訪れないかもしれない、またとないチャンスだった。
私はこのまま、思い通りに事を運べる。そういう確信があった。




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