双葉杏「透明のプリズム」
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44: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:31:03.56 ID:OJA0wgUK0



ポジティブシンキングと言われればそれまでだと思う。
ただ当時の私の抱いた結論は、結論ありきで途中の論理をこじつけにこじつけたような、ありがちな嘘ではなく、順繰りに思考を巡らした結果偶然にも得られた、私に希望を抱かせるような結論だった。

順を追っていけば分かることだ。


プロデューサーが私をアイドルとしてしか見ていなかったのは何故?

――私がプロデューサーの担当アイドルだったからだ。

今のプロデューサーにとって、私は?

――元担当アイドル。それ以上もそれ以下もない。

今のプロデューサーと私の関係は?

――何か形式的な繋がりがあるわけではないけれど、決して赤の他人ではない。言わば旧友のような関係。
 

それなら今のプロデューサーは、私のことを一人の人間として見てくれるんじゃないだろうか?
たとえ今までがそうじゃなかったとしても、私が彼の担当を外れた今というのは、私を覆っていた双葉杏という偶像の内側を彼に認識させるチャンスじゃなかろうか?
今までプロデューサーが私の内面に目を向ける必要がなかったように、今の彼が私の内面に目を向けてはいけない理由もない。
それなら、私の努力次第でいくらでも状況が好転する今の方が、よっぽど幸運なんじゃないだろうか?


閉め切っていたカーテンを開けると、どうしようもなく晴れやかな空が目に映る。
――当時の私はプロデューサーに、アイドル双葉杏としてではなく、一人の少女である双葉杏として認識されることを目標として動いていた。
そのときの私はその動機――私がどうしてプロデューサーに、アイドルとしてではなく一人の人間として認識される方を選んだのか――を考慮にすら入れなかった。
後になって考えてみてもこれは判然としない。私がプロデューサーからどのように見られようが、私は損も得もしなかったはずなのだ。
 
ここから先は推測だけど、そうやって私は彼との繋がりを断たないようにしていたのかもしれない。
あるいは、ずっと長い間意図せずとはいえ私を騙していた彼を、見返したくなったというのもあるだろう。

ガラスの向こうに浮かぶ空を眺めながら、これから先のことを考えた。
色々考えて、頭を使って、それで――途中でどっと疲れが押し寄せてきて、ばたんと布団に倒れ伏した。
その日はそれ以上は何もせずに終わったのを私はよく覚えている。




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