双葉杏「透明のプリズム」
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43: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:30:31.29 ID:OJA0wgUK0







わがままな人間だったと思う。
レッスンはサボりたがるし、事務所にも時間の限度ギリギリに到着する。
口を開けばやれめんどくさいだのやれアメが欲しいだのとごちゃごちゃうるさい。
怠惰の限りを尽くすくせに口だけは一人前で、プロデューサーに迷惑をかけてばかりいた。

そんな私にプロデューサーが愛想を尽かさないのは、私が越えてはいけない一線を我が物顔で通り過ぎるほど頭が悪くないこともあっただろうけれど、それ以上に私は、長い間一緒にペアを組んできたが故に、私のことをちゃんと理解してくれているから、だと思っていた。
確かにそれは理由の一つだと思う。でもおそらく、主たる理由ではない。
 

プロデューサーが私に愛想を尽かさないのは、単純に私にそこまで興味がなかったからだ。
全部、私の思い過ごしだったんだ。
私の思いは全て、一方通行だったんだ。
私たちは初めから、どうしようもなくすれ違っていたんだ。
ずっと一緒に居たから、たまにはアイドルじゃない本当の私を見てくれていると思っていたのに。

勝手に期待して、勝手に失望する。
最近はいつもそうだ。



味のないコンビニのアイスクリームをお腹の中に詰め込んで、私は布団を被る。
139センチの体躯はこういうとき便利だ――全身をすっぽりと掛布団で覆えてしまえるから、簡単に外界と自分を隔絶できる。
時間的にも物理的にも先ほどの出来事と距離をおいて、私は色々と考えた。
複雑な感情の洪水が収まって残ったものは、信じていたものがあっけなく崩れ去った結果訪れた、更地のような虚無感だった。
 
何が、ラッキーアイテムが飴玉だ。
ああでも、乙女座は12位だったね。
それなら、あの星占いも捨てたもんじゃないな。

左ポケットをまさぐると、私の左手は飴玉を掴んだ。
掛布団の真っ暗闇の中で、飴玉の味を確認する。
オレンジだった。
口に放り込めばたちまち、花の咲くように、甘味と酸味、それからオレンジの風味が全身を通り抜けた。
 



まるで落雷のようだった。
かちり、と音がした、ような気がした。
電流が頭の先から足の爪までを一瞬のうちに流れる。
鼓動は再び早まっていく。
十二時ちょうどを通り過ぎた時計の針が、一日の後半の脈動を動かし始める。


――私は、ラッキー、なのかもしれない。




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