双葉杏「透明のプリズム」
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42: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:29:53.20 ID:OJA0wgUK0


「ずっと、お前を担当していたかったよ」


彼の言葉を反芻する。
――その言葉は、私に暖かな安心感を与えるとともに、僅かな違和感を気付かせた。

私とプロデューサーは同じことを言っている。
私はずっとプロデューサーの担当でいるものだと思っていたし、彼はずっと私の担当でいたかったと言っていた。
違和感の源流はおそらく、プロデューサーの口調だ。
彼の口調には怒りが込められていた。彼にそう言わしめた感情の正体は怒りで、これは私が持ち合わせていない感情だった。

次に続いたプロデューサーの言葉は、より彼と私とのずれを意識させるものだった。



「心残りでしょうがないんだ。アイドルとして、中途半端なタイミングで担当を辞めることになったのが」



私は急に突き放されたような気分になった。
彼にそんなつもりは全く無かったのだろうけれど、しかし私は実際に突き放されたのだ。
私が彼を一人の人間として見ているのに対し、彼は私をアイドルとしてしか見ていなかった。
彼にとって、私は恒久的に双葉杏というアイドル像そのものだったのだ。

身の毛のよだつのを感じた。
何もない空間に突然放り出されたような、全身から熱という熱を一気に引き抜かれたような、そんな気分を覚えた。
怒涛のように感情の波が押し寄せ、未だ整理のつかない頭の中を一層混乱させた。



そこから先のことを私はあまり覚えていない。
白々しい相槌を打つしかなくて、一人で勘違いして浮かれていたことが恥ずかしくなって、居た堪れなくなって、その場から一刻も早く逃げ出したくなって、何かしらの理由をもって部屋を飛び出したことは覚えている。
ただ、血の通っていない会話の中で、プロデューサーがこの部屋にいて、他の子がいない時間帯が土曜日の夕方であることを私は聞き出していた。
私は最低限のラインを死守することは怠らないような人間だった。




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