双葉杏「透明のプリズム」
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41: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:29:16.68 ID:OJA0wgUK0


「担当替えにどんな事情があったかなんて知らないけどさ」

「杏は、辛かったよ」

「辛くて苦しくて、なかなか眠れなくて、はじめは食事も喉を通らなくて」

「でもね、平気なフリをしてたんだ。ずっと」

「ねぇ、プロデューサー」

「杏は寂しいんだよ、ずっと、ずっと」

「プロデューサーに会えなくて、寂しいんだ」

 
右足を一歩踏み出すと、プロデューサーは大げさに身体を震わせた。
ここまであからさまに動揺してくれなくても、と思う。
真昼の空気を吸い込んで、ひとつ吐き出す。
プロデューサーは俯いて、覚悟めいた表情を決め込んでいた。


――私の独白は終わった。
事務所の一室は今、雲一つない青空のような沈黙に支配されている。
プロデューサーに向かって、にやりと口角を吊り上げると、彼は、本当に参った、というような表情で私の方を窺った。


ねぇ、プロデューサー。
杏は全部吐き出したよ。何もかも。
次はプロデューサーの番だよ。
ほら、早く。
言わなきゃ、分からないんでしょ。
言葉にして、杏を安心させてよ。
ちゃんと、杏の思いが一方通行じゃないってこと、証明してよ。


心の中に生まれた言葉をプロデューサーに目で投げかける。
やがて彼は重々しく口を開いた。
窓からは焼けつくような日光が射し込み始めた。
事務所正面の大通りを一台の自動車が通り過ぎる音が耳の裏側を掠めていった。
それを除けば事務所は無音そのもので、お互いの息遣いがしっかりと感じられるほどだった。


「俺だって」




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