4: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:01:20.85 ID:OJA0wgUK0
「ねぇ、ヒント頂戴」
断続的に響く車の振動は苦痛なものだった。
私は左のポケットに、撮影前にプロデューサーから貰った飴玉が入っているのを思い出した。
薄暗い車の中で、包みに書かれた文字を読もうとする。
何味かをちゃんと確認してから飴を舐めるのが礼儀ってもんでしょ。
「そうだなぁ……日本にあるよ」
どうやらイチゴ味らしい飴は、私の無意識下で舌の上をころころと転がる。
緑色の空は、なんと日本にあるらしい。
私は記憶をあれこれ探ってみるが、日本のどこかで空が緑色になるというのは聞いたことがない。
「本当にわからないんだけど」
「そうか」
「そうか、って何さ。ねえ、答え教えてよ」
プロデューサーは答えなかった。
私は焦らされていたのだ。
教えないという選択肢を取ることで優越感に浸られるのは、癪だった。
ふうん、そんなことするんだ。
私は精一杯の拗ねた演技を見せる。こういうときに、アイドルとして培ってきた演技の技術は役に立つ。
プロデューサーは慌てて、いや、教えないこともないんだけど、と弁解した。
左頬を掻いて、言葉を選んで、
「ほら、もうちょっとさ、考えてみてよ。一週間考えてみて、それでも答えが思いつかなかったら、答えを教えてあげるよ」と続けた。
後部座席の私は、すぐに折れるのもそれはそれで癪だと思って、もう少しだけ緑色の空というものに思いを馳せてみた。
しかし目ぼしいアイデアが浮かばないまま、そのうち車は事務所へと到着したので、その日はもう、緑色の空について考えることはなかった。
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