双葉杏「透明のプリズム」
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37: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:27:09.57 ID:OJA0wgUK0


だから私は、とりとめのない話をすることにした。
唐突に始まった世間話は、何の身にもならない話ばっかりだったけれど、ふたりの間に漂っていた奇妙な緊張感を弛緩させるには十分なものだった。


「ねぇプロデューサー」


私はそのまま、自然な流れで飴玉を要求することにした。


「やっぱり、アメ、頂戴」

「……あぁ」


プロデューサーは思い出したように引き出しを開く。
見たことのない飴の大袋を3個ほど取り出して、前と同じようにテーブルの上のお皿に盛りつけた。
どうやらプロデューサーは、新しく飴を買ったようだった。


「ね、プロデューサー」


横になったまま、プロデューサーに声をかける。
どうしたの、という返事が、部屋の生暖かい空気を通じて私の耳に届く。

――透明な水に赤の絵の具を落としてしまえば、その赤色が消えることはない。
でも、赤色の水を透明でいくらでも薄めることができるように、一週間前の出来事と、私の抱いた痛みや喪失感だって、いつかは無かったことにできるのかもしれない。
当時の私は、そんな月並みなことを考えていた。


「アメ。ひとつ選んでよ」


彼は渋々といった表情で、寝転がった私のもとへやってくる。
彼の手の一番近くにあった飴玉をひょいと寄越すと、椅子へと戻っていった。

黄色い包みには、レモンと書いてある。
レモンの酸味を舌で堪能しながら、ここ一週間のことを考えた。


ひとつ思ったことは、一週間は長すぎるということだ。
黄色い飴玉は、ここ一週間の私の痛みを、爽やかな酸味で塗り替えていった。




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