36: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:26:22.22 ID:OJA0wgUK0
「もう来ないのかと思ってたよ」
プロデューサーは開口一番、本質を突くようなことを口にした。
デスクの横の椅子に腰を掛けて、私の出方を窺っている。
私は無言を貫いたまま、左手にうさぎを握りしめ、ソファーに横になる。
天井を眺めながら、何をしにここに来たのか思い出そうとしていた。
そのうちに思い出すのも面倒になって、頭を使うのを一旦やめることにした。
……このままこの部屋のソファーで、ずっと天井を眺めていられれば、それでいいや。
プロデューサーは慎重になっていた。
どうしてあんなに私を腫れ物のようにそっと扱うのだろうと思っていたけれど、頭を再稼働させ、一週間前の私の言動を思い出せばその理由は自ずから見えてきた。
私は間違えて、「プロデューサーが私を怒らせて、起こった私がプロデューサーに愛想を尽かした」という幻想を彼に抱かせてしまっていたのだった。
一週間という時間は、私の体感した焦りや冷や汗の記憶を薄めるのに十分な長さだったから、そのことをしばらく失念していたのだ。
目線をプロデューサーの方に向けてみる。
90度回転したプロデューサーは私をぼんやりと見つめていた。
目が合って、彼は慌てて視線を突飛な方向に移した。
私は誤解を解かなくちゃいけない。
彼の抱いている幻想を幻想だと認識させ、私が敵意を抱いていないことを再認識してもらわないといけない。
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