35: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:25:39.57 ID:OJA0wgUK0
☆
人が変わるためには何が必要か。
人というものはしばしば、この問いについて考える。
変わるのではなく変えるのだとか、変わらなければならない環境に身を置くのだとか、変わろうという覚悟を持った時点で変わっているのだとか。
巷でよく聞く答えは決まってそういった類の綺麗事だ。
でも、例えば私がただの高校生からアイドルを志す人間に変わったのだって、たまたまプロデューサーが東京でひとり暮らしをしていた私に出会ったからだ。
人が変わるきっかけなんてのは、結局のところ偶然がほとんどだと思う。
私がこの日、自発的に行動をすることに思い至ったのだって、「ラッキーアイテムが飴玉」なんて偶然が起こったからだ。
思い返してみれば、随分と馬鹿げている。
ラッキーアイテムが飴玉だからって、それは私がプロデューサーに自分から会いに行く理由にはならない。
でも、テレビの画面を睨んでいた私は、直感的に、これがプロデューサーに会いに行く理由だと悟っていた。
私は、偶然を信じてみようとしたのだ。
大きく2回深呼吸する。
事務所の埃っぽい空気を吐き出して、7階のドアをノックした。
ドアの向こうから、聞き慣れた声の返事が聞こえてくる。
3秒間は、水中に潜ったときのように長く感じられた。
ドアを開けたときのプロデューサーの顔は、今でもはっきりと思い出せる。
表情の半分は驚きで、もう半分は、情けないような息苦しいような苦笑い。
そのふたつを混ぜてぐちゃぐちゃにしたような、そんな顔だった。
プロデューサーはもごもごと口ごもって、ようやく状況を飲み込んだかと思えば、何も言わずに私を部屋に通した。
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