13: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:08:20.78 ID:OJA0wgUK0
☆
「双葉さん」
後部座席でスマートフォンを弄っていた私は、新しいプロデューサーの声で、事務所に辿り着いたことに気付いた。
時計は20時を過ぎたあたりを示していた。
もうそんな時間なの、と呟くと、もうそんな時間です、と鸚鵡返しの返答が聞こえてきた。
独り言に返答をされるのは気恥ずかしい。
――車のドアを開けると、地下駐車場のコンクリートの凝縮した香りが鼻を突いた。
「お疲れ様です」
「まったくだよ」
むくれたような返事をする。彼からすれば、私はいつも懲りずに拗ねているように見えたことだろう。
でもそうやって拗ねるように見せているのは、彼を困らせたかったからではない。
私はきっと、そういうキャラクターを演じたかっただけなんだと思う。
双葉杏というキャラクターは、色々と生きやすい。
「双葉さん」
「何さ」
「今日も別の用事があるので、事務所でお待ちいただけますか」
「ああ、うん」
世の中のどっちを向いてもつまらなさそうに拗ねているような体を装っている一方で、当時の私はあくまで従順だった。
仕事にもレッスンにも決して好意的ではないが、やれと言われればやる。
それが双葉杏だった。
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