8: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:13:57.78 ID:k2me14jR0
ただ、ここはやはり素直にお礼を言っておかなければならないだろう。
「プロデューサー」
私の前で「あ。でもですね。経費を使ったって言っても、そんなに高くなくて。というか、先方のご厚意ですっごく安くお譲りいただけて……」などと聞いてもいない言い訳を重ねているのを強引に遮る。
「その、これ、プレゼントしてくれたんだよね」
「えっと、はい。そうですね」
「そっか。……なら、うん。まずはありがとう。嬉しいよ」
人差し指で頬をなぞりながら、率直な気持ちを言葉にした。
アイドルとして活動を続けてきた甲斐あって、以前よりはマシになったと思いたいが、それでもまだ私は愛想がない方だと思うので、なるべく伝わるように伝わるように言葉を選ぶ。
「プロデューサーが私のために用意してくれた衣装、大事にするね。お返し……じゃないけど撮影も全力で頑張るから」
私が言い終わると、プロデューサーの顔がぱぁっと花が咲いたように明るくなる。わかりやすい人だ。
「良かった。てっきり困らせただけかと思って、不安で」
「もう。一年も一緒にいるんだから、ちょっとは察してよ。これでも結構本気で嬉しいんだってば」
彼は私の言葉を聞いて、心底安心したようで「そっかぁ。……そっかぁ」と繰り返していた。
机上に置いてある先程まで着ていた水着に視線を移す。
彼が贈ってくれたこの水着に恥じない働きをしたい。する。私は強くそう誓うのだった。
「そういえば話が逸れちゃったけど。三つ目は?」
「ん。三つ目?」
「三つくらい伝えたいことがあるって、さっき」
「あー。三つもなかった。さっきので終わり」
「……はぁ」
ちょっと見直したばかりなのに、すぐに評価を下げるのは呆れを通り越してもはや感嘆するばかりだ。
でも、頼れるところと頼れないところが半々くらいの、こんな塩梅がちょうどいいのかもしれないな、なんて。
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