26: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:45:26.11 ID:k2me14jR0
「あれさ。特に意味のないものなんだ。結婚指輪だけど、実は俺結婚なんてしてなくて」
え。
思わず声が漏れる。
どうして、そんな嘘を。
脳内は一瞬で疑問で埋め尽くされる。
そして、ほとんど隙間がないくらいに敷き詰められた疑問の数々の中に、私はひとかけらの喜びの感情を見つけてしまった。
さっき、あんなにしてはいけない期待だと封じ込めたものが、徐々に力を取り戻していくみたいだった。
「なんでまたそんな嘘ついてたの?」
「あれはさ、俺の師匠とも言える人からもらったもので、つけてる理由も受け売りなんだけど……なんでも“間違いがないように”ってことらしいんだ」
「間違い?」
「そう、間違い。あんまりこんな話をしちゃうのもアレなんだけれど、ほら、長いこと男女が一緒にいることになるわけだろ。プロデューサーとアイドルって。それで、アイドルの方は基本的に恋愛禁止を敷かれるワケで。そういう状況下で、“恋愛”をしてもバレにくいって言ったら言い方悪いけど、そういう相手って必然的にその担当のプロデューサーが有力になっちゃうでしょ。余所だったらマネージャーの人とかもあるかもだけど、とりあえずウチの場合は」
「……あー」
問題の解決の仕方が強引ではあるが、理屈は理解できる。
つまり、結婚指輪をすることで相手にその気を起こさせず、かつ自分も一度ついた嘘を貫き通す必要があるため易々と一線は越えられない。
そういうことなのだろう。
なるほど、と思ってしまうくらいには合理的ではあった。
「だからその、な。あれはぶっちゃけどうでもいいものなんだ。今まで黙っててごめん」
謝られ、咄嗟に私は「謝ることではない」と返すべきだった。
頭ではそう理解していても、どうしてもその言葉が出ない。
代わりに、瞼の端がぼんやりと滲む。
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