27: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:46:52.10 ID:k2me14jR0
あれ。うそ。なんで。
何で悲しいんだろう。自分で自分が理解できず、わけがわからなくなってしまう。
混乱に陥りながらも、涙だけは悟られるものかと瞬時に外の景色を見るふりをして肩口で拭う。
一拍置いて、「そっか」と声を絞り出した。
沈黙が流れた車内で、自分の感情について思考を巡らせてみれば、悲しい理由はすぐに見当がついた。
プロデューサーがこれを私に話すこと、話したこと、それ即ちプロデューサーは“私とそうなるはずはない”と判断したからに他ならない。
結婚指輪の牽制がなくとも、私には絶対にその一線を跨れないと彼は思っており、なおかつ自分もその一線には近付く気などない、というわかりやすい宣言だからだ。
先程までの私は、何を喜んでいたというのだろう。
彼が結婚してようが、していなかろうが、私の手が届くことはないのに。
愚かにも淡い期待を抱いた自分を呪った。
気付いてしまってからというもの、何も喋る気になれない。
ただただ窓の外を流れる景色を、見るともなく眺めることしかできなかった。
どうやら私は、狙っていた役のオーディションに落ちたときより、全力で収録した楽曲がお蔵入りになったときより、落ち込んでいるらしい。
ごめんなぁ、などと言って笑い、必死に雑談の方向へと持って行こうとするプロデューサーにも生返事以外、できなかった。
そして彼は、そんな私の様子を察せないような人ではない。
当然のように私の異変に気が付いて「ごめん。怒ってるよな」と神妙な顔になって、こちらを窺ってくる。
怒ってるわけじゃないよ。
そう言いたかったが、声にならない。
沈黙を肯定と受け取ったプロデューサーは、努めて私の機嫌を取り戻そうと「帰り、寿司のあとはケーキも買って行こうか」だとか「最近は晴れが多いから、ハナコも喜んでるんじゃない」だとか語りかけてくるのがまた、私の神経を逆なでする。
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