24: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:42:59.88 ID:k2me14jR0
○
レッスンスタジオを出て、すぐ正面にプロデューサーの車は停まっていた。
彼も私が来たことにすぐに気が付いて、こちらに視線を送ってくれるので、そのまま助手席に乗り込みシートベルトを締める。
「じゃあ。会場までよろしくね」
「ああ。……その、今日は本当にすまん」
「謝らなくていいよ。プロデューサーが悪いわけじゃないし。誰に非があるわけでもないんだからさ、そういうの、言いっこナシ」
「代わりのオフが取れるように、調整するよ」
「それは、うん。遠慮せずにもらっておこうかな」
私が言うと、彼は「うん。約束する」と笑った。
助手席の椅子に体重を預け、運転する彼の横顔を見る。今日はじめに会った時よりは表情が晴れたかのように思うけれど、平常時よりもやや緊張しているような面持ちだ。
それもそうか。数時間程度の準備時間で、担当のアイドルをステージに送り出すのだから。
いくら彼が私を信じてくれているとは言え、完全に心配を消し去ることなどできないのだろう。
そう思って彼を観察すると、握っているハンドルさえ、心なしかいつもより強く握りしめているような気がした。
そして、ハンドルを握っている彼の手を見て、私はあることに気が付いてしまった。
あるべきものが、あるべき場所にないのである。
場所、それは彼の左手の薬指で、ないのは指輪だ。
どきり、と心臓が跳ねるのを頭で否定する。
だめだ。
それはしてはいけない、許されない期待だ。
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