18: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:34:37.67 ID:k2me14jR0
「そういえば、プロデューサーにずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「ん?」
「ちょっとプライベートな話だし、言いたくなかったら言わなくていいんだけど」
「いいよ。今日は一日どんな質問にも嘘偽りなく答える、って約束だしね」
「ふふ、そういえばそうだっけ」
「そうそう。だから、どんと来いってもんよ」
「じゃあ、その。プロデューサーの奥さんってどんな人なの?」
私がずっと聞いてみたかったこと。
それは彼の奥さんがどんな人物であるか、ということだ。
個人的な話もお互いに割とするし、日常であったことなんかを話題に出すことも常なのだが、何故か彼の口から彼の奥さんの話を聞いたことがなかった。
意識的に言わないようにしてるのか。他になにか理由があるのか。
見当もつかないけれど、気になってしまってからは聞いてみたいとずっと思っていたのだ。
そして、その千載一遇のチャンスが今と判断した私は、この質問を投げた。
「そうきたか……」
少し照れ臭そうにして、彼は笑う。
「ええ、と。どんな人、かぁ。そうだなぁ。笑顔がかわいくて、気が利くところがあって、優しくて、でもちょっと不器用なところがあったりして。……抽象的なことしか言えないけれど素敵な人だよ」
自分で聞いておいて勝手だと我ながら思うけれど、何故だか胸の奥にもやぁっとしたものが立ち込める。
どうしてだろう。
どうして、プロデューサーがプロデューサーの奥さんの話をしているのを聞いていると、あまり良い気分になれないのだろうか。
依然として困ったような顔で笑うプロデューサーを前に、考え込んでしまう。
そうして、しばらく考えた末に私は「ああ。そうか」と自分の気持ちをなんとなく推測することに成功した。
きっとそれは、普段私のことを綺麗だとかかわいいだとか褒めてくれる彼の言葉が重さを手放していくように感じられるからだ。
もちろん、彼が褒めてくれるのは本心からなのであろうが、きっと彼の一番は私ではなく奥さんで、この順位は未来永劫覆ることがない。
つまるところ、負けず嫌いな私は、このどうしようもない“敗北”に対して無意識の内に不快感を覚えているのではないだろうか。
なんとなく自分の感情に察しがついて、幼稚だなぁ、と自分に呆れてしまう。
けれども、不快感の正体が掴めたら、先程感じた言い様のない気持ち悪さはなくなったように思う。
「そっか。ちょっと聞いてみたかっただけ」
軽くプロデューサーにそう返す。
「ん。……他に何か質問は? この際だし、なんでもいいよ。気になることは今の内に聞いてくれたらいいよ」
「ううん。もうないよ。何も」
言って、窓の外を見る。
外は既に真っ暗で、そこにあるはずの白い砂浜も青い海ももうなくなってしまったみたいだった。
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