渋谷凛「ソールド・アウトマーク」
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17: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2019/08/10(土) 00:31:53.79 ID:k2me14jR0

待たせすぎちゃったかな。

反省を覚えつつ、寝顔をぼんやり眺める。

あまりにもよく眠っているので、起こすのが気が引けてしまう。

それに、きっと疲れもたまっているはずだ。

今日なんて、朝からこの海まで私を連れてくるために運転して、午前中は撮影に立ち会って、午後は私と遊んで、それからスタッフの人たちと何やらお仕事をしていたみたいだし。

すぅ、すぅ、と一定のリズムを刻んでいる彼の姿をしばし見つめ、自分のスマートフォンを鞄から取り出す。

カメラを起動して、おそるおそるシャッターを切った。

狭い車内に、かしゃっという音が響く。

「んん?」

彼がくぐもった声を上げる。

しまった。起こしてしまったか。やめておけばよかったかな。

申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、もう一回寝ていいよ、と念を送ってみる。

しかし、その念は不発に終わったようで、彼は強めの瞬きを数度したあとで、倒していた椅子を元に戻し起き上がった。

「ごめん。寝ちゃってた。今何時?」

「大丈夫だよ。私も今戻ってきたところだから」

「ん。そうか。ごめんなぁ。情けないところを見せた」

「気にするほどのことじゃないって。疲れは取れた? 取れてないならもっかい寝た方がいいよ。私が運転代われたらそれが一番なんだけど」

「いや、大丈夫。かなりぐっすり寝られたよ」

「それならいいんだけどさ」

ぐぐっ、と再び彼が伸びをして、首をぽきぽき鳴らす。

「じゃあ帰ろうか」

そう言って、彼はシフトレバーを操作してから、アクセルを踏む。車はゆるやかに動き出し、穏やかな振動が体に伝わってきた。

「海は楽しめた?」

「うん。プロデューサーたちが作ってくれたんだよね。遊ぶ時間」

「あれ、バレてたか」

「だって、撮影終わってからの自由時間が多過ぎるし、誰でも気付くって」

「まぁ、普段忙しくさせてるからさ。何かしてやりたいですね、って島村さんとこと本田さんとこと話して。どうにかこうにか時間作って、みたいな」

「……そっか。ありがとね」

「凛たちが楽しかったって言ってくれるのが何よりの報酬、ってやつだよ」

「あ。かっこつけようとしてる」

「ついてる?」

「んー。ふつう、かな」

「ふつうって何?」

撮影が終わり次第、帰るようにしていればプロデューサーたちは他のお仕事なり休むなり、いろいろなことに時間を使えただろうに。

自分達の時間を削ってまで、私たちが楽しむ時間を作ってくれた、というのは感謝しなくてはならないし、ありがたいことであるな、と思った。



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