71: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:27:39.75 ID:BON9hvjh0
『ええっと! そういうわけでは!』
「……ふふ、冗談だよ。もし本当に私を見つけるなら……アンタの言ったことを信じてみようかなって。今はそう思ってるんだ」
そう言いながら見せる、はにかむような笑みに俺はもう駄目だった。思わず熱くなる目頭に、天を仰いで。眩しさなんて気にも留めず、見開いた目から涙がこぼれないように瞬いた。
『……あっ!』
そして思い出す。社長が放ったらかしであることを。それから、目の前の彼女を見て、
『ぜひ、紹介したい人が居るんだ。ついてきてほしい!』
と手を取ってそして歩み始める。
「あっ、ちょっと……!」
少し頬を赤らめて抗議する彼女だったけれども、今の俺にはかわいいなあ、なんて蕩けきった考えしか思いつかなかった。
『社長! 社長! この子です、この子が俺の証明です!』
幸いにも社長は残っていてくれた。時計を見れば、十分ほどその場に放っておいたことになる。が、不思議と罪悪感はなかった。それよりもずっと、高揚感の方が強すぎたからかもしれない。
「君、仮にも上司になるかもしれん人間を放っておいて、それが第一声かね?」
そんなお小言と苦笑だけで済ませてくれたのは、やはり眼前の人物の器がこれでもかと大きい証左なのだろう。
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