37:名無しNIPPER[saga]
2019/07/26(金) 17:59:19.12 ID:XLNzjGnq0
「あっ…………」
ぐにゅっとした、柔らかな感覚。俺の左手が、何かを押し込んだ。
「あっ、あっ……………………」
力の抜けたような、冬優子の声。同時に、何かが滴り落ちるような微かな音が聞こえてくる。同時に、じわりとした湿り気が左手に染み出した。
直感か、あるいは天啓だったのか。俺は音の発生源に顔を近づけていた。躊躇ってはいられない。目当てのものだとわかって、思い切り顔を埋めて吸い上げる。生暖かく、心なしか濃く感じる味。ヤツの悲鳴が、一段と大きくなる。動きが止まった。
口いっぱいに頬張ったそれを、動きの止まったヤツの目に向かって思い切り吹きかけた。ヤツは、今までのしぶとさが嘘のようにくるっと背中を向けて。ゆっくりゆっくりと移動を始めた。
ライトで背中を照らす。退散する時までも、不気味な歌を歌い、体をくねらせ、ヤツはゆっくりゆっくりと移動していた。
俺とあさひは、ヤツが見えなくなるまでじっとライトで背中を照らし、いつ振り返るか分からない恐怖に耐えながら見つめていた。
永遠とも思える苦痛と恐怖の時間が過ぎ、やがてヤツの姿は闇に消えた。
俺とあさひはしゃくりあげながら泣き出した冬優子を立たせ、そのまま人形の手足を動かすようにして俺の背中に乗せた。
ロッジに戻るまで何も会話を交わさず、黙々と歩いた。
「――皆!! 無事で…………冬優子ちゃん? 冬優子ちゃん大丈夫!? …………あ」
生きてはいたが、大丈夫ではなかった。ストレイライトでは、この日のことを語るのはぶっちぎりのタブーとなった。
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