20: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2019/07/24(水) 12:34:59.54 ID:rmJoFnhWo
「しかし、そう考えると、あさひの言った水槽の喩えはなかなか面白いな」
「そうっすか?」
「空の青さに水を連想することはさして珍しくもないけれど、その場合、普通は私たちが水の側にいるんだよ」
プロデューサーさんは、ふっと視線を上へやった。
私もまた、彼女と同じようにして空を見上げる。
名前も知らない鳥が視界の端から端へと一直線に横切っていった。
「どこまでも突き抜けるような空の高さに対応するようにして、自分のいるところを海底に見立てるんだ。すると次に連想されるのは、たとえば水圧だ」
「それは重力に対応するんすかね」
「そうだね。あとは酸素がないことからくる息苦しさなんかかな。いずれにせよ不自由なことばっかりだ」
「なんだかつまんないっすね。せっかく海の底にいるのに」
「私もそう思う。だから、あさひの出した比喩は面白いんだ。空の向こうに大量の水を浮かべて、そこで終わりだ。私たちの環境自体は何一つも変わらない」
「それが面白いんすか?」
「私にとってはね。毒にも薬にもならないような比喩が堪らなく好きなんだ。それに該当しない表現が嫌いだってわけでもないけれど」
「初耳っすよ、そんなの」
「初めて言ったから、そりゃね」
プロデューサーさんは背を浮かせるようにして、そのままベンチから立ち上がる。
それから半分くらい中身の残ったペットボトルに小さく口をつけた。
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