3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/07/20(土) 23:43:04.85 ID:+a76L7SS0
両手にタンブラーとマグカップを持って、プロデューサーのデスクへと戻る。
彼も私がやってきたことに気が付いて、モニターから私へと視線を移してくれる。
「ブラック、でよかったのよね」
「うん、ありがとう。タンブラーで持ってきてくれたんだ」
「だって、マグカップで飲み切るには多過ぎるもの」
「夏葉は持って帰らなくていいの?」
「ええ。それに私、家では紅茶の方が飲むのよ」
「へぇ。高い茶葉使ってそうだなぁ」
「ニルギリ、ウバ、キーマン他にもたくさんあるわよ? 有栖川の家ではおやつの時間によく出てね……ってこれ、実家の味ってやつなのかしら」
「さぁ、どうなんだろう。それにしても高貴な実家の味だなぁ」
「でも昔はうんと甘くして飲んでいたのよ? お砂糖とミルクを入れて」
「あはは、そこはちゃんと子供らしいんだ」
「当たり前じゃない。アナタはそういう実家の味みたいなもの、ないの?」
「うーん、俺のは普通と言うか面白みがないと思うぞ。なんせ俺の実家でお茶と言ったら麦茶だからなぁ」
「ふふ、樹里も同じことを言っていたわ」
「へぇ。あ、でも、そっか。西城さんはスポーツやってたと聞いてるから、麦茶は愛飲してただろうな」
「そうね。事務所にも常備されているから最近は私もよく飲むけれど、暑い外から帰って来たときに出てくる麦茶は何とも言い難い幸福感があるのよね」
「それそれ。汗だくで帰ってきて、冷たーくしてある麦茶を飲むと、夏だなーって感じで」
「そういうのも夏ならではよね」
「なー。今飲んでるのはあっついコーヒーだけど」
「不満なら返却してくれていいのよ?」
「ちょっ、こぼれる、こぼれるってば。コーヒーが良いです! 嬉しい!」
「冗談よ」
「冗談ならもうちょっと手心を加えて」
「何事にも手を抜かないのが私、有栖川夏葉よ」
「はいはい」
「はいはい、って。アナタいまめんどくさくなったでしょう」
「なってないなってない。夏葉の淹れてくれたコーヒー、世界一おいしいよ」
「インスタントのコーヒーが世界一だなんて……。今度ちゃんとした豆から挽いたものを用意するわ」
「誇張表現ってご存知?」
「うふふ、少しからかっただけよ」
「照れ隠し?」
「何を言ってるのかしら?」
「世界一って言われてちょっと照れたでしょ」
「そんなわけないじゃない。だって、当然だもの」
「じゃあ、夏葉は世界一かわいい」
「……そのにやにや顔でこっちを見るの、今すぐやめて頂戴」
彼の額を人差し指で強めに弾く。
すると彼は「いてぇ」というなんとも間抜けな声を上げて、作業に戻るのだった。
腹正しいことに、にやけ顔はそのままである。
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