【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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9:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 02:31:14.82 ID:VQj+6fZHO
「――やっぱり、ここにいたんだね」
会議の翌日、事務所ビルの屋上にある喫煙スペースで小休止していたプロデューサー。タバコを取り出しオイルライターで火をつけようとしたその時、後方から声をかけられる。
「……涼か」
彼の元へ一人でやってきたのは、ヘヴンズドアのメンバーであるアイドル、松永涼であった。
「どうした?」
火をつけようとしたその手を止め、ライターをポケットへ。
「いや、アタシに構わず吸ってくれ」
「お前がよくても俺がダメだ」
「いいから。アタシは気にしない」
「……後でお前のプロデューサーからなんか言われても知らんぞ」
「ふふっ、あの人はアンタの後輩でしょ?」
「そういうの、今はパワハラって言われるんだぞ?」
彼女は別のプロデューサーにプロデュースされている立場であるが、夏樹とは親しい間柄で、その為彼とも親交がある。
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
再びライターを取り出し、今度こそ火をつけるプロデューサー。
彼が紫煙を吐いたのを見届けて、涼はゆっくりとした口調で話し出す。
「単刀直入に聞くけど――夏樹となんかあった?」
やっぱりか――彼は今一度煙を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出す。
「質問に質問で返してすまないが、そっちは特に何もないんだな?」
「……ということは、アンタとも何かあったってわけじゃないんだね」
「ああ……」
二人はお互いにお互いの意図を感じ取っていた。つまり、夏樹の様子がおかしい原因を探っていたのだ。
「最近、あんな様子でしょ? 夏樹のヤツ……」
「そうだな。俺としてもどうしたものかと悩んでたところだ」
「アタシたちもなんとかできないかって話してたところでさ」
「迷惑かけてすまんな」
「何でアンタが謝るのさ」
「いや……」
「分かるよ。夏樹のヤツは自分のイメージを壊したくないから、だからああ見えて実は人一倍神経質な人間なんだ。それほど努力家ってことでもあるけど――ともかく、あいつのことだし『何でもない、大丈夫だ』の一辺倒なんでしょ?」
「そうだな……。本当にプライベートなことなら、こちらとしてもできるだけそっとしておきたい。あいつから助けを求めて来ない限りはな。だけど……」
「そうだね。これは明らかにおかしいってやつだ」
そこまで言って、二人は押し黙る。
夕どき……。沈みゆく日が涼の長い茶髪を照らし、それは金色に輝く。
そして彼女が無意識に髪をかきあげると、金色は乱反射するようにゆらゆらと揺らめき、眩い光を放った。
そんな光景を横目で見て、プロデューサーはタバコの灰を落とす。
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