【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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8:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 02:26:22.29 ID:VQj+6fZHO
「新曲……マジ!? テンション爆上がりじゃん!」
社長の提案に歓喜の声を上げたのは、ベースギターを担当するアイドル、藤本里奈。
どこかおちゃらけた、いわゆる「いまどきギャル」な風貌の彼女であるが、バンドでは堅実に演奏をこなす。派手な外見とは裏腹に、バンドを底で支える影の実力者だ。
「遂に来たね!」
里奈に続いて声を上げる、ギター担当の原田美世。
トリプルギターの中、主にリズムギターのパートを担当する彼女。リズムギターはサイドギターとも呼ばれるように、主に演奏のリズムを整える実直な役割であるが、美世のチューニングにかかればどんな難曲でも見事に調和されてしまう。
「最近ソロ活が多かったし、久しぶりに暴れたい気分だったし、ナイスなタイミングだね……!」
そう言って静かに闘志を燃やすのは、同じくギター担当の松永涼。
リズムギター、それからリードギターのパートもこなす技巧派で、バンド経験者でもある。
元のバンドではボーカルを担当していたため歌唱力も抜群であり、彼女をメインボーカルとする楽曲も存在するなど、その存在感をありありと見せつけている。
「新曲……! やるに決まってんだろ!!」
そして、ドラムスの向井拓海が情熱的に呼応する。
元ヤンという異質な背景を持つアイドルであるが、義理人情に厚く一種の正義を貫くような熱い心を持っている。
それは彼女が叩くドラムにも見事に現れていて、激しい曲ではより情熱的に、メロディアスな曲では哀愁が漂うように美しく演奏してみせる。
スタミナも十分であり、男性でも消耗が激しいツーバスドラムも鮮やかに扱うことができる。
バンドの核となるドラム。その重い役割を一身に背負う強さは、メンバーの心の拠り所。そんな存在だ。
「新曲……。やった……!」
四人の声の後、控えめに拳を握るのはボーカルの多田李衣菜。
メンバーの中でも特に華奢な印象を受ける小柄な彼女であるが、それとは対照的にどこまでも通る明瞭な歌声を持ち、重厚感のある楽器隊の演奏に負けることはない。
明瞭でいて、爽やかで、そして可愛らしく華やかな歌声――それだけ聞くとロックとは相反するものだが、そのギャップがうまく調和し、また新たなロックシーンを生み出している。
海外進出にも目を向ける社長の戦略により、楽曲のいくつかは英詞だけのものが存在するが、李衣菜はそれに臆することもなく歌い上げる。彼女はネイティヴスピーカーでもないし、英語に堪能なわけでもない。それでも自然に歌い上げることができるのは、並々ならぬ努力の賜物と言えるだろう。
「……さて、リーダーはどう思う?」
五人がそれぞれ声を上げた後、僅かな沈黙が訪れる。
その沈黙を割いて社長が声をかけた先には――
「……新曲。いいと思う」
ボソッと、呟くように声を漏らした夏樹。
ヘヴンズドアのリーダーであり、ギター担当。主にリードギターとしてソロパートを務める。そのテクニックは圧巻の一言で、彼女のギターソロは観客を魅了し陶酔させる。
演奏、ビジュアル共に圧倒的カリスマ力を持ち、バンドの顔になっている夏樹。何かと個性・癖が強いメンバーをうまく纏め、牽引することで直実に前進してきた。
彼女もバンド経験があり、場数も踏んでいるので頼もしい存在である。
他の五人にとっても、夏樹がリーダーであることには何の疑いもない。情熱を持ち、しかし冷静に客観視もできるその性格は生粋のリーダー気質とも言える。
そんな彼女なら、「よし、いっちょやってみるか!」と気前よく応えたことであろう。いつもの彼女なら。
「……夏樹」
夏樹の後方に座っていたプロデューサーが、不安げな表情で声をかける。
「あ、悪い悪い……! いいんじゃないか? やろうぜ!」
「よし。じゃあ決まりねー」
どこか上の空な彼女を見て一瞬怪訝な面持ちになった社長であるが、持ち直した夏樹を見届けて、そうして事を進行させていく……。
以後、何もなかったかのように振舞っていた彼女だが、その異変に戦友たちが気付かないはずもない。
不安の種は、次第に芽吹きつつあった――
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