【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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10:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 02:38:45.35 ID:VQj+6fZHO
「……もしや追っかけに悩まされてるとか、ストーカー被害にあってるとか?」
「アンタ、まさかそれ冗談でしょ?」
「いや、そういうもんってなかなか言い出しづらいだろ?」
「だけど、アンタになら夏樹は絶対に言うでしょ。まずアンタに」
「そうか……。そうだな……」
「……夏樹はアンタのこと信頼してるし、好きだから」
「……」
「だから、余計に言い出しづらいのかもしれない」
「それは、お前らバンドメンバーでも同じだと思うが」
「……そうかもしれないね」
手探りの会話は、大通りの喧騒にかき消される。
プロデューサーとの間で問題を起こしたわけでもなく、バンドメンバーとの間でも同様。では、その原因は一体どこにあるのか。
「何か、兆候みたいなもんが分かってればな……」
「兆候?」
「ああ。ああなってしまったのには絶対原因がある。その原因へと繋がるヒントがあればいいんだが……」
「――ねえ、アンタと一緒にいる時の夏樹、どんな感じ?」
「どういう意味だ?」
「スマホとか、頻繁に見てたりしない?」
「そうだな……空き時間はたいていギターいじってるか、バンドのスコアとか雑誌読んでるか、あとは台本とか進行の確認してるかだな」
「なるほどね」
「寮では違うのか?」
事務所お抱えの寮が存在し、そこに住んでいる者も多い。一人暮らしと比べて家賃など諸費用が安いため、上京したばかりの新人や若いアイドルはたいていそこで暮らすことを希望する傾向にある。
ある程度稼げるようになり余裕が出ると独立し一人暮らしするのが一般的だが、彼女たちバンドメンバーは居心地の面であえてそうせずに留まっている形だ。
「そう、問題はそこなんだ」
涼はそう言ってプロデューサーの方へ向き直る。
「アンタが言った通り、夏樹は寮でもそんな感じ――ただ、最近はスマホをやたら見てる」
「つまり、どういうことだ……?」
「アンタにも話してるかは分からないけど、ずっと前にね、向こうからチラッと聞いたんだ」
「……?」
「夏樹、アイツ実家との仲が結構悪いみたい」
「……」
プロデューサーはその言葉に衝撃を受けるが、短くなったタバコを一つ吸って平静を取り戻す。そしてそれを灰皿へ捨てた。
「その様子だと、プロデューサーのアンタには話してなかったみたいだね」
「……ああ」
彼はどこか気まずいような表情で、手持ち無沙汰になった腕を組んで虚空を眺めた。
「それは知らなかった……」
ただ、その真実を聞かされて、プロデューサーは過去のとある記憶を思い返す。
(あいつ、プロフィールの緊急連絡先、あとは契約書の類に兄の名前を書いてたな……)
事務所に所属するタレントとして、プロフィールや契約書への記載が当然必要になる。
この場合のプロフィールというのは外のメディアに向けたそれではなく、事務所内の人間へ向けたもので、いわゆる学籍簿のようなものだ。
夏樹はそこの緊急連絡先の欄に兄の名前と電話番号を書いていた――続柄の項目には母でも父でもなく、兄の文字が書かれていたのだ。
契約書などの保証人の欄にも、同様に兄の名前が記載されていた。
両親が健在であるならば、一般的にはそのどちらかの名前を書くはずだ。ということは、もし彼女の言うことが本当ならば両親と折り合いが悪く、兄だけが味方になってくれている、そういう可能性がある――彼は一人、胸の内でそのような憶測を巡らせる。
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