【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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11:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 02:44:19.45 ID:VQj+6fZHO
「二本目、吸ってもいいよ」
「……?」
プロデューサーが一人黙考していると、涼が優しい口調で声をかける。
「まだ時間、あるんだよね?」
そう言われて、彼は腕時計を見る。
「……そうだな」
「ちょっとだけ話したいことがあるからさ、二本目吸って適当に聞いてて」
「適当はダメだろ」
僅かに微笑を浮かべながら、プロデューサーは二本目のタバコにゆっくりと火をつける。
彼がちょうど煙を吐いたタイミングで、涼はおもむろに語り出した。
「実はアタシも両親と仲が悪かったんだ――今はまあ普通って感じまで直ったんだけど。いわゆるお嬢様って感じが嫌だった。それだけさ」
「……」
「それで夏樹、あいつもアタシと似てるんだよ」
「あいつの実家も、そういう感じなのか?」
「それは分からない――あいつと初めて会ったのは、まだアタシたちがこの業界に入る前だった」
「……」
「アタシほら、バンドやってただろ?」
「そうだな」
「それで、バンドメンバーと一緒にシェアハウスで暮らしてたんだ……」
――まあ、あの時は楽しかったよ。でも、次第にみんなの心は離れていったんだ。別にそれを恨んじゃいない。
カートコバーンが自身のヒット曲である『ティーンスピリット』を嫌っていたように、アタシたちが表現したいものと、大衆が求めるものが違っていた。よくある「音楽性の違い」ってやつさ。
それで、アタシたちのバンドは解散した。解散したけど、音楽仲間としてシェアハウスには住み続けた。
……そんな時、あいつが転がり込んで来たんだ。夏樹が。
アタシのバンド仲間の一人があいつの先輩らしくて、そのツテを頼って来たって話だった。
どうやら夏樹も地元を飛び出して来たらしくてさ。似た者同士のアタシたちはすぐに仲良くなった。
そうやって暮らしていく中で、あいつがボソッと話してくれたんだ。そういうことを。
まるでイージーライダーみたいなもんさ。夢というバイクから転がり落ちて、後はそのバイクだけがノロノロとハイウェイを走り続ける。
あの時の夏樹もそんな感じだった……。
それからは、死んだ街から飛び出したアタシが先にアイドルになって、そしてここへ来た。
まさか、同じ事務所でアイドルとして再会するとは夢にも思ってなかったけどさ――すっかりと夕日が暮れた空を仰いで、涼は一人語った。
「そうだったのか……」
「ここだけの話だけどね」
「分かってる。つまり、そんなこんながあってあいつは実家を飛び出して来た。それで今になって何かが起きて実家から連絡が来ている。そういう可能性があるってことか?」
「そうだね。何か悩んだような顔でスマホをしきりに眺めていたのは、つまりそういうことかもしれない」
「そうか……。話してくれてありがとう」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとね」
まあ、それを知っていながら何もしてやれないアタシもアタシなんだけどね――彼女はそう付け加えて自嘲気味に笑った。本当は夏樹本人と同じくらい思い悩んでいるはずなのに、歯痒い想いを苦笑いで表現することしかできない。そんな印象を受ける。
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