【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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38:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 05:14:38.05 ID:VQj+6fZHO



「夢の中にいるみたいだ……。色々あったけどほんとにサンキューな、プロデューサーさん」
「どういたしまして。まあ、俺はなんもしてないけどな」
「……今になって思い出したんだ。地元にいた時の思い出」
「……?」
「家族のこと、学校のこと、バンドのこと……。いいことばかりでもなかったけど、悪いことばかりでもない」
「……ああ」
「死んだ街だと思ってたよ――でも違う、死んでいたのはアタシの方だったのさ。アタシがどうなろうと、あそこは何も変わらない。変わったのはアタシの方。どんなことがあっても、あそこはアタシのホームだったんだ」
「ああ、そうだな……」


 前を向いたまま、夏樹はそう語る。
 過去を背負い、それと共に歩んで行く決意が彼女の瞳に浮かんでいた。


「プロデューサーさん、眠くないか?」
「……眠くなってきた」
「おい、マジかよ……!」
「冗談だよ」
「ったく、本気にするからやめてくれ――そうだ、ステレオかけるか!」


 何故か少し気恥ずかしくなって、夏樹はそれを誤魔化すようにカーナビの端末を操作する。


「ステレオに音楽とか入れてる?」
「おう。SDカード入れてるから、その中の曲でいいなら流すか?」
「そうだね、居眠り運転なんてされたらたまったもんじゃないしな」
「……そんじゃ、次のサービスエリアで一服するかー」
「ああ、そうだね……っと」


 慣れない手つきで端末を操作する夏樹。


「……夏樹、そこはラジオだぞ」
「あ、すまん」


 SDカードの音楽を再生しようとした折、間違ってラジオを流してしまう彼女。


「えーと……」


 四苦八苦して、遂にプロデューサーの手が伸びようとしていた。


「あ、ちょっと待ってくれ!」
「……?」


 その時、砂嵐のノイズが次第に晴れ、音声が入る。
 どこの局の放送かは不明であるが、慣れ親しんだ声が車内に響いた。


『……人気アイドルでもあり、話題沸騰中のガールズバンド、ヘヴンズドアのボーカルでもある多田李衣菜さんとお送りしている今回のおとラジですが、いやー、アイドルの裏話からバンドの裏話まで、貴重なお話をありがとうございますー』


 それは、夏樹にとってアイドル・バンド仲間である多田李衣菜が出演した録音放送であった。


『……それでは毎度お馴染み、ゲストがおすすめする曲を流しちゃうコーナーです! 李衣菜さんのおすすめ曲、楽しみですねぇー! それでは李衣菜さん、曲紹介をお願いします!』

『任せて下さい! はい、この曲は私の大切な人、バンド仲間が教えてくれた曲です!  歌詞はどこか切ない感じなんですけど、懐かしいような優しさもあって。そして最終的には前に歩く力をくれる、そんなハートフルでロックな曲です! 聴いて下さい、1106(いちいちぜろろく)!』






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