【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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30:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 04:35:52.29 ID:VQj+6fZHO


「プロデューサーさん、急にテンション下がり過ぎだろ……」
「だってさ、『ぽんぽこ!』って言わなかったんだぞ、『いらっしゃいませ、ぽんぽこぽーん!』って!」
「あぁ、あれか……。いや、あの掛け声はやらない店もあるって噂を聞いたけど」
「くっ……! 俺の思い出が……」
「まさか、『確かめたいこと』ってそのことだったのか?」
「……ああ」
「くくっ……! あはは……! それだけのために!?」
「何がおかしい!」
「プロデューサーさん……! あんたって人は……くくっ!」


 道とん堀――ほぼ全国に展開する鉄板焼きのチェーン店。
 東京生まれの道とん堀は、今や日本最大のお好み焼きチェーンとして人々から親しまれている。海外にも進出し、その勢いは目覚ましい。

 なんともめでたい、縁起が良いタヌキの置物に迎えられ店に入ると、出迎えた店員が威勢良く快活に「いらっしゃいませ、ぽんぽこぽーん!」と呼びかけ、他の店員がそれに続く。ただの店ではない。エンターテイメント性も兼ね備えた楽しい店だ。

 鉄板焼きコミュニケーションとでも言おうか、鉄板を囲んで楽しんで欲しいという姿勢を感じられる、鉄板アミューズメントパークがこの店である。


「……昔、俺が行った店ではぽんぽこコールしてくれたんだけどな」


 が、店舗によっては『ぽんぽこぽーん』の掛け声はしない所もあるらしく、二人が入った店舗もどうやらその一つだったらしい。

 小上がりの座敷、フローリングの上には鉄板が埋め込まれたテーブルが置かれ、それが等間隔で並んでいる。

 座って寛ぐことができる店内で、入店一番腰を下ろしたプロデューサーは、例の掛け声がなかったことに拍子抜けした様子で、どこか面白くない顔をしている。


「まあ、よく考えてみなよ。毎回毎回『ぽんぽこぽーん』なんて言わされる店員の気持ちをさ」
「でも、それが楽しみな奴もいるんだよ……!」
「ぷっ」
「笑うな!」
「ぷはっ……! プロデューサーさんって、意外と子供っぽいんだね!」
「ぽんぽこ……ぽんぽこ……」


 ぽんぽこレスな彼は、まるで危ない薬の中毒者が新しいそれを求めるが如く、「ぽんぽこ、ぽんぽこ……」とひたすら呟いている。

 あまりにもぽんぽこと呟くものだから、対する夏樹はそんな彼の顔と愛くるしいタヌキの姿が重なって、続けざまに吹き出してしまった。






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