【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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20:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 03:39:51.99 ID:VQj+6fZHO
「どうもすみません、いつも娘がお世話になっております……」
翌日のこと。
プロデューサーは夏樹を乗せて彼女の実家へとやってきた。
全てを察したような夏樹は半ば諦観したような面持ちで何も言わず、ただ玄関先に立ち尽くす。
海岸線に近い場所に位置する彼女の実家。広い敷地には昔ながらの二階建てと、後から建てたらしい現代風の二階建てが並んでいる。奥には作業小屋も見られ、田舎の二世帯住宅といった様相である。
また、敷地の入り口横にはシャッターが閉めきった、古ぼけた建物があった。ガレージが併設されているようなそれには、色あせた文字で「木村モータース」とあった。
古いほうの二階建てを尋ねると、夏樹の母が現れる。
梅雨の気配が近づきつつあったが、依然として快晴の空。土曜日のことであった。
「さあ、上がっていって下さい――」
夏樹の母に促されるまま、プロデューサーと夏樹は玄関を跨いで家へ入る。
成り行きで茶の間へと通され、二人はこたつテーブルの前に並んで腰を下ろした。
夏樹の母が台所でせわしなく動いているのを眺めながら、プロデューサーは回想に耽る。
……プロデューサーと、それからバンドメンバーが立てた作戦は、夏樹を彼女の実家へ連れてくることであった。そうするために、彼女を誘い出すことであった。
発端は夏樹の母からの電話。
電話の内容は、要約すれば「プロデューサーの力添えでなんとか彼女を実家へ連れて来て欲しい」というもので、実家と夏樹の折り合いが悪いのはどうやら真実であったらしい。
「わざわざ遠いところから、ありがとうございます」
「いえいえ……。こちらこそお世話になっております」
お茶と茶菓子をお盆に載せて、夏樹の母が茶の間へ戻って来る。
「……」
プロデューサーの傍ら、当の夏樹は何も言わず、それから始まった世間話や近況報告といった会話の中でも「あー」とか「おう」と上っ面な返事を寄越すのみであった。
「プロデューサーさん、狭い家ですけど、良かったら今日は泊まっていって下さい」
会話もやがて途切れ途切れになると、夏樹の母がポツリと切り出した。
「いえ……! さすがにそれは……!」
「いいんですよ、いつもお世話になっておりますし、ささやかながらおもてなしさせていただこうと思ってたんです」
夏樹を実家に連れて来ることは叶ったわけだが、その後については白紙だったプロデューサー。彼女を置いて一人帰るわけにもいかず、結局のところ渋々ながらその提案に甘えることになった。
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