【モバマス】 木村夏樹「道とん堀には人生がある」
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19:名無しNIPPER[sage saga]
2019/07/15(月) 03:32:24.31 ID:VQj+6fZHO

 彼女は何かを悟ったように、一人呟く。そしてどこか諦めも混ざったような声音で、ゆっくりと語っていった。


「このまま『ノッキンオンヘブンズドア』みたいに、『イージーライダー』みたいに、どこまでも行ってしまいたかった……」


――奥田民生とか流してさ。ブルーハーツでもいいか。まあとにかく、どこまでも行ってしまいたかった。
 でも、ヘブンズドアにしてもイージーライダーにしても、最後は死んじまうんだ。見たことあるか? あの結末どう思う? アタシは最高にロックだと思う。あんな人生、送ってみたい。


 だけど、彼らは逃げていたわけじゃない。答えを求めていたんだって思う。
 対するアタシは、今のアタシは逃げているだけ。乗り越えなくちゃいけない現実から逃げているだけ。


 分かってるさ。でも、アタシはそれを到底許すことができないんだ。
 時間が癒してくれるとは言うけど、まだアタシにとってそれは鈍い痛みのままで。


 なあ、いつかの夏フェスで歌った曲を覚えているかい?
 アンタも好きなグリーンデイ。アンタが教えてくれたグリーンデイの『Wake me up when September ends』を歌ったよな。


 なんであれを選んだか分かるか?
……つまり、あれがアタシの心境だったんだ。
 夏が来てあっという間に過ぎ去ってしまうように、世の中も、人々も、記憶も何もかも変わっていってしまう。


 でも、アタシだけは忘れたくなかった。だから、あの会場のみんなにも知って欲しかった。あの人が生きていた記憶を。
 そうすれば、みんなの中であの人は生き続けることができる。


 そう思ったのさ――


「プロデューサーさん……」


 ゆっくりと語る夏樹は、次第に嗚咽交じりの吐息を漏らす。


「夏樹」


 既に眠りに入っていたように見えたプロデューサーだが、彼女の異常を察して体を起こし、そして……。


「すまなかったな」
「何でアンタが謝るんだよ……」


 ベッドに座る夏樹を、後ろからそっと抱き寄せる。


「もういいんだ。大丈夫、俺はここにいるから」
「プロデューサーさん……」
「今夜は、余計なことは考えずここで眠れ」
「……ありがとう」


 これまで見せたことのない、涙を浮かべる彼女を抱き締めて、プロデューサーは夏樹をベッドの中へと導いた。


「プロデューサーさん……」


 赤子をあやすように、胸元に引き寄せて彼女を寝かしつけるプロデューサー。


「……」


 やがて、規則的な寝息を胸元で感じた彼は、それに誘われるように目を閉じた。







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