2:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:39:51.69 ID:lCVrPTby0
銀のスプーンが、ぴりりと震えた。
「梓ちゃん。よく見ててね」
3:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:41:07.17 ID:lCVrPTby0
夏休みも後半に入っていたある日のことだった。
合宿が終わり、始業式まであと数日。残った宿題を終えて、気づくとお昼を過ぎていた。買い置きの冷凍食品を切らしていたので、お昼ご飯を食べに外に出た。律センパイにメールを送ったけれど返事がない。しかたなくひとりで駅前までやってきてラーメン屋に入ろうとしたとき、声をかけられた。振り向くと、ムギセンパイがいた。休みの日にふたりで会うのははじめてだった。
4:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:42:28.80 ID:lCVrPTby0
「ねぇ梓ちゃん。わたしも一緒に入っていい?」とムギセンパイは訊いた。
断る理由もないので頷くと、センパイはうれしそうに、
5:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:43:27.78 ID:lCVrPTby0
お昼を少し回っているせいで、店内にお客は少ない。
水を注ぎにきた店員さんがちらりとムギセンパイに視線を向けた。ムギセンパイはかなり美人だ。金髪、青い目、抜けるように白い肌。おっぱいも大きい。床が脂でギトギトの中華屋でラーメンなんて柄じゃない。まさに掃き溜めに鶴だった。
6:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:44:25.29 ID:lCVrPTby0
「ふぅ」ムギセンパイが満足そうに息を吐いた。
センパイの丼にはスープの汁一滴、チャーハンのお米一粒も残っていない。
すっかり食べ終えた後は、「これは何に使うの?」と言いながら爪楊枝を手に取ってみたり、メニュー表を隅から隅まで舐めるように見回しては「替え玉、ってなぁに?」と訊ねたり。その都度、私はムギセンパイの疑問に答えた。
7:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:45:33.81 ID:lCVrPTby0
「もう一杯、頼んでもいい?」両手を合わせたムギセンパイが上目遣いに訊いた。
えっ。驚いた私は思わず声に出した。ラーメンに、半チャーハンまで食べたのに。
無理でないなら、どうぞ。そう答えるとムギセンパイはにっこりと笑い、店員さんを呼び止めて替え玉を追加注文した。やってきた替え玉をもくもくと平らげて、にっこり笑い、「こんなにおいしいもの食べたの、はじめて」とおおげさに喜んだ。
8:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:46:26.87 ID:lCVrPTby0
「そんなにおいしかったですか」
「うん。とっても。さいきん、しょっぱいものとかあぶらっこいものとか、無性に食べたくなるの」
お酒飲みみたいだな。って思ったけど、口には出さず、黙って頷く。
9:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:48:02.26 ID:lCVrPTby0
「そう、超能力」
ムギセンパイが真顔で答える。
もしかして、ボケてる? ムギセンパイなりの、精いっぱいの冗談かもしれない。ツッコんだほうがいいのかな。
10:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:50:00.33 ID:lCVrPTby0
「そうね。たとえば、スプーン曲げ、とか」
「えーっと、それは手品的なやつ、ってことですか?」
なるほど。ムギセンパイはさいきん手品にハマってる、というわけか。
11:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 21:51:35.83 ID:lCVrPTby0
琴吹家に生まれた女の子は、17歳になると超能力が発現する。
ムギセンパイのお母さんもおばあさんも、ひいおばあさんもそのまたおばあさんも、みんなそうだった。
ただしそれは18歳になると失われる。一年間限定の力。
超能力といっても、力には制限がある。
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