57: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:01:21.92 ID:tLeGcQVf0
私が席から立ち上がろうとしたその瞬間、クラリスさんの声が響く。まるで見ていたかのようなタイミング。
そのまま無視して帰ろうかとも思ったけど、そのタイミングの良さに免じて、まだここにいてあげる。
「───あなたに今日一つだけ覚えてほしいことがあるのです」
58: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:02:06.64 ID:tLeGcQVf0
「貴女は『その子が亡くなったこと』、それ自体に着目してらっしゃるようですが……」
「その子は生きていたのです。苦しかったかもしれませんが、必死に生きようとしていたはずです。その子は生きていたのです。貴女に向けた笑顔は本物だったはずです。その子は生きていたのです。難しい手術を受け入れて、尚且つ生きようとしたはずです」
59: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:02:50.29 ID:tLeGcQVf0
「──その子が生きていたことにも着目してあげてください、加蓮さん」
60: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:03:33.30 ID:tLeGcQVf0
◆◇◆
いやー、思いだすだけでも結構ダメージあるね。確かに私はあの子が亡くなったことばかり気にしてた。
そのせいで、あの子が生きてたって感覚を完全に失っていた。
61: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:04:12.46 ID:tLeGcQVf0
「あんなこと言われちゃったら、今まで聞きまわってた私がバカみたいだよね……」
「私ね、あの子が死んだことばっかり気にしてた。あの子とはそれまでたくさん楽しくおしゃべりとかした。でもそんなことは忘れちゃって……。あの子が死んだ。あの子が戻ってこなかった。でも私が生き残った。そんな結論ばかり気にばっかりで」
62: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:05:20.71 ID:tLeGcQVf0
「……いわゆるサバイバーズ・ギルトってやつだな」
そんな風にプロデューサーさんがポツリと呟いたその言葉、どっかで聞き覚えがある……。
確か、昔入院していた病院へ久々に行った時に、奏が口にしてた気がする。
63: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:06:13.30 ID:tLeGcQVf0
「ねぇプロデューサーさん? 私は生きてていいのかな?」
64: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:06:54.59 ID:tLeGcQVf0
「あの子の代わりでもなく、私が私として人生を謳歌してもいいのかな?」
65: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:07:39.43 ID:tLeGcQVf0
「私、昔からの夢だったアイドルを楽しんじゃってもいいのかな?」
66: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:08:42.62 ID:tLeGcQVf0
そんな弱音を吐く私。後ろからため息をつく音が聞こえる。でも音は軽蔑や落胆のそれではなくて───
67: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 22:09:40.02 ID:tLeGcQVf0
「馬鹿野郎。良いに決まってんだろ? 俺が育てたアイドルだぞ? こんなところで折れるようなヤワな育て方してねーよ」
79Res/49.77 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20