【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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94: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/06/18(火) 23:58:52.82 ID:BLRBsoCc0


 誰もがそこにいて、声を聞いていた。

 グラスを傾ける柊さんも、カップを磨くマスターも、ハーブティーを楽しむ花屋さんも、文庫本をめくる古本屋さんも、
 野良猫と遊ぶ写真屋さんも、大人も子供も、一時それぞれの手を止めて、すべての意識を一ヶ所に注ぐ。

 桜の巨木の根元に立つ歌姫は、今やこの明るい夜の中心だ。

 
 世界が彩られる音に灼(や)かれて、俺はただ、呆然としていた。


 歌い終えて頭を下げる高垣さんに気付きもしなかった。
 今度こそ破裂する万雷の拍手で我に返り、コーヒーがぬるくなっていることにようやく気付く。



 顔を上げ、はにかんだような顔をする彼女は、すっかりいつも通りの高垣さんだった。




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