【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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270: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/09/03(火) 01:24:13.64 ID:/BT2JQWN0

「……ありがとうございます。気が楽になりました」
「行くのね?」
「はい」

 抱えていたのは、十年越しの余計なお世話。百も承知だ。だけど忘れられないものは仕方ないだろう。
 時間がかかりすぎた。いい加減腹はくくった。
 忘れられなければ、ずっと背負って歩くだけだ。

「……総代には私から言っておくわね。あなたが無事に出られることを祈ってるわ」
「あ……ちょっと待ってください!」

 別れる前に思い立ち、マスターを呼び止める。
 最後に、お願いしたいことがあった。

「どこへ行けばいいか、教えてくれませんか?」

「……誰かに答えを聞くのは反則よ? それに、私も正解を知ってるわけじゃないわ」

「それでいい。どこでもいいから、俺はあなたに決めて欲しいんです」


 何故そんなことを言ったのか。
 行き先に迷ってヤケクソにでもなったか。
 自分でもわからない。

 だけど、この人が示す方角へなら、脇目も振らず走り抜けられる自信があったから。
 根拠など一つもなくとも、確信に近い思いがあったから。




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