【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
1- 20
269: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/09/03(火) 01:22:48.19 ID:/BT2JQWN0

 父親の進退やアイドル業界の裏事情や、勝つか負けるかなんてこと、本当はどうだって良かった。

 きらきら輝くあの人たちは、一体どこへ行ってしまったんだろう。
 泣いてはいないか。寒くないだろうか。寂しい思いをしてはいないだろうか。
 どこかに、安らげる場所を見つけられただろうか。

 それが、それだけがずっと気がかりで――


「――クロさんは、優しいのね」
「そんなことありません。情けなくて、未練がましいだけですよ」
「優しいわ。だって今、『そうさせたくない』人がいるんでしょう。その為に走ってるんでしょう?」

 彼女の声は、まるでずっと昔からの友への語りのように、穏やかだった。
 それは俺の心の一番奥にある、小さく冷たくて硬い最後のしこりを、たった一言で氷塊させた。

 ずっと迷子だった。

 何がしたいのか、どうすればいいのかわからなくて、あの日の残光に勝手に怯えて。

 だけど……それも無駄ではなかったと、目の前の人に肯定してもらえたような気がした。




<<前のレス[*]次のレス[#]>>
328Res/204.86 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice