【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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263: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/09/03(火) 01:16:31.29 ID:/BT2JQWN0

 頬を張り、軽くストレッチをする。
 長く止まっていると余計な考えばかりが浮かぶ。
 弱い気持ちを振り払うためにも、歩き続けるしかなかった。止まらないでいるうちは、少しでも近付いていると思おう。

 さて、どこへ行こう。ヒントも目印も無い異空間の中、桜と雪のカーテンを手でかき分けるようにして歩く。

 と――

 目の前に、人影がちらついた。

「!! 高垣さ――」

 もつれるように駆け寄って、別人だと知る。

 差した傘の上に、雪と桜が降り積もっている。
 高垣さんより少し低いが、女性にしては高めの身長。すらりと細い体。
 ウェーブのかかった長い髪に、どこか憂いを湛えた静かな瞳――


「……マスター?」


 夜市の「マスター」は、俺を見て微笑した。




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