【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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129: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/07/07(日) 22:22:26.02 ID:BmYrOlBS0

「けど、良かった」
「何がですか?」
「カナリヤさん、あまり人付き合いが得意な方ではないから。あなたみたいなお相手ができて嬉しいと思うの。大事にしてあげてね?」

 だからそういうのでは。
 なおも反論しようとしたところ、マスターが夜市へ通ずる扉を開く。
 今回のそれは、路地の奥の奥にぽつんと鎮座する稲荷明神だった。


 小さな祠の軋む木戸を開けば、その向こうには提灯が並ぶあの参道。

 二度目だが、また唖然とした。多分何度訪れても慣れない気がする。
 街中で突如出現した異空間に踏み入り、マスターはこちらに手を差し伸べる。


「総代に用があるんでしょう? こっちが近道よ、ついてきて」

 頷いて手を取り、色鮮やかな夜の中へ。
 彼女の手は暖かく、ほっそりしていて、けれど少し荒れていた。
 傷付いて分厚くなった表皮と、ところどころにできたタコ。働き者の手だ、と俺は思う。




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