65: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/09/15(日) 22:52:46.90 ID:VqG4l+2oo
このみは倉庫の扉を開けたが、案の定いつもと変わらずごちゃっとした印象を受けた。
あまり奥に置いておくと何処にあるか分からなくなりそうだったので、
入ってすぐ近くの床の端に段ボール箱を置いておくことにした。
66: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/08(火) 01:37:39.55 ID:fNCrqDvgo
……のであるが。
「……ぜんっぜん居ないわね……。」
67: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/08(火) 01:38:18.97 ID:fNCrqDvgo
しかしその道中の、ある扉の前でこのみの足が止まった。
他のそれと明らかに異なり、その観音開きの扉は無骨で金属的な灰色をしていて、
全て扉を開ければ小さなトラックくらいなら入ってしまいそうなほどの大きさがある。
68: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/08(火) 01:39:44.03 ID:fNCrqDvgo
舞台袖は普段薄暗くて、人が隠れられるほどのものがたくさんある。
たしかに隠れるとしたら絶好の場所ではあるのだろう。
万が一隠れている子がいたら、その時はきっちり言ってあげないと。
少なくとも確認だけは一応しておかないといけないだろう。
69: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:12:39.47 ID:eH8hmcZZo
ステージ上手側の舞台袖は、ステージセットの搬入が行われる関係もあって、大道具が数多く置かれていた。
このみは、誰か陰に隠れてたりはしないか、と大道具を一つ一つ見て回ることにした。
劇場では、以前の公演のステージセットの一部を、新しい公演で使うことがしばしばある。
70: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:13:57.94 ID:eH8hmcZZo
結局、上手側にも、下手側にも、舞台袖に誰かが隠れているようなことはなかった。
このみは息を撫で下ろしたが、それならば本当に何処に隠れているんだろう、と謎が深まるばかりだった。
やはり一旦出直して一から探し直そうと、もとの扉へ向かったこのみであったが、
もう一度辺りを見回して、そこであるものに目が止まった。
71: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:15:36.08 ID:eH8hmcZZo
ずっと以前にもこうしてステージライトを見上げたことがあった。
765プロへとやってきて、本当にすぐの頃。
アイドルをやっていける自信がなくて、いっそ断ってしまおうかと考えたこともあった。
72: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:16:33.20 ID:eH8hmcZZo
それから、まるで走馬灯のようにいままでの出来事が思い起こされていった。
このみは左手に添えようとした右手が、持っていた資料の束にあたり、かさりと音を立てるのを聞いた。
73: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:17:32.92 ID:eH8hmcZZo
私が初めて公演のステージで歌うことが決まったとき、実のところ怖さの方が大きかった。
夢や憧れだけで願いは叶わないなんてことは、昔からよく知っているつもりだったし、
この世界へと飛び込んだ選択が正しかったのかなんて、いくら考えても分かりそうになかった。
ただ、一度後ろを振り向いてしまったら、何かに肩を掴まれて、そのまま引き摺り込まれてしまいそうな気がした。
74: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:18:06.05 ID:eH8hmcZZo
当の公演の直前も、そうだった。
足は震えていたし、声も上擦っていた。
他のアイドルやスタッフ、プロデューサーと話をしたりしてようやく落ち着くことができたけれど、
心の底に張り付いた不安まではどうしても拭いきれなかった。
75: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/10/17(木) 11:19:46.32 ID:eH8hmcZZo
このみは薄明るく照らされた舞台の上を、ゆっくりと半歩だけ足を動かした。
静けさの中で、小さな足音が響いた。
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