56: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:43:26.53 ID:9pdDfgPfo
冷静に、頭の中で少しずつ、先生の話をエミリーに置き換えてみる。
「もう少し正確に言うと──彼女が発症以前に語っていた、音楽を始めたきっかけの記憶。
音楽を通して感動した記憶。 音楽を続けていて良かったと思う記憶。
そういう思い出について尋ねられたところ、彼女はそうした過去の出来事について全く思い出すことができなかったそうです」
「それと同じことがエミリーにも起こっていると?」
「……日本の文化が好きで、日本人らしい立ち振る舞いに憧れていた。
そこにはきっと、彼女の日本への憧れに関連した何らかの記憶があるはずです。
日本語能力の喪失はあくまで副次的な症状で、もしもスチュアートさんが本当になくしたのがそうした思い出だったとしたら──」
「──そのせいで今のエミリーは、大和撫子の憧れを思い出せないでいるってことですか」
「……ちょっと待って」
伊織が話を遮った。
「どういう話をしてるのか何となくは分かったわ。 けど、それと日本語を思い出せないのと、どう関係があるの?」
「伊織、どういう意味だ?」
「日本語を日常的に使っていたエミリーだから、勉強しなおせば自然と言葉も思い出していく、って話だったわよね。
だからあの子に昔の教材を使わせて、できるだけ過去の思い出とリンクできるようにってことだったじゃない」
そのまままくし立てるように続ける伊織。
「実際、ちょっとした読み書きや会話はすぐにできるようになったのよ。 どうして途中で何も思い出せなくなったの?」
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