エミリーが忘れた日
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55: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:42:14.74 ID:9pdDfgPfo
 
「十年ほど前、アメリカで実際にあった症例です」

二日後、エミリーを再び家で休ませることにしてから、俺と伊織で再び医者の先生を訪ねる。
彼女についての話──日本に強い憧れがあったこと、
そしてそのことをまるで覚えていないかのような反応を示したこと──を伝えると、先生は静かに話しだした。

「音楽家であった一人の女性がいました。 彼女は類い希なる才能を持った奏者で、また熱心な努力家でもありました。
 音楽を始めてから楽器に触れなかった日がないほど……それだけ、音楽を愛していたということでしょう」
「はぁ……」
「あるとき、彼女はウイルス性脳炎にかかってしまいまして。
 治療の末回復こそしたものの、後遺症により過去の記憶の大半をなくしました。
 ただ何もかもを思い出せないというわけではないのです……
 母親や家族のこと、自分が音楽をやっていたこと。 そういうことは覚えていました」

伊織も黙ったまま話を聞いている。

「回復してからしばらくはまた音楽を続けようとしたそうです。
 完全に元通りとは行かないものの、楽譜の読み方、演奏技術、そうしたものは練習を重ねるとある程度思い出すことができたとか」
「そんなことが……」
「しかし、結局彼女は音楽を辞めてしまった」
「……なぜです?」

先生は一息置いて言った。


「以前のように、音楽へ関心を向けなくなってしまったそうです」


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