エミリーが忘れた日
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52: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:38:33.74 ID:9pdDfgPfo
 
「《分からないって……何が?》」

伊織が問いかける。

「《自分がこの曲をもらってから……すごく頑張って歌の練習をしていたこと……それは覚えています。
歌詞だって、いつでも譜を持ち歩いて読んでいました。 そのことははっきり覚えてるんです、この頭で》」

力のこもらないエミリーのぼんやりとした言葉が、だんだんと俺の理解を超えていくような気がした。

「《きっと私にとって、この曲はとっても大事な曲だったんだと思います…………なのに……》」

──だった?

「《私がこの歌の何に感動していたのか、どういうところが好きだったのか……どうして大事にしていたのか、今の私には、何も分からないんです》」
「……どういうこと……?」

同じく異変に気がついた伊織も、事態が飲み込めないのか俺の目を見た。

「その……エミリー。 この「はなしらべ」は、エミリーの日本を愛する心、エミリーの持つ“和”の心をよりいっそう引き出すために用意した曲なんだよ」
「《…………ワ、って何ですか……?》」

足りるか分からないこんな説明で精一杯だったのに、エミリーはさらに不穏な疑問を投げかけてくる。
彼女が何を言いたいのかまだよく分からないのに、明らかに血の気が引いていくのを感じた。

「《エミリー、どうしちゃったの? この曲、大好きだったんでしょ?
 あんたが目指す、大和撫子の雅さに溢れた素敵な曲って、いつも言ってたじゃない》」
「……ヤマ、ト、ナデ……」

無気力なまま少し考えて、エミリーは問い返した。








「《ヤマトナデシコって……なんですか?》」


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