エミリーが忘れた日
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51: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:36:47.15 ID:9pdDfgPfo
 
だんだんと掠れ声になっていった歌声は一番のサビが終わるか終わらないかでついに聞こえなくなった。
「止めましょう」と伊織は言ったが、なんとか口だけでも動かしているのがかすかに見えたのと、
振り付けはまだ続いていたのでもう少し待つ。手足の動きも少しずつ弱々しく、小さくなっていく。

──最後にはエミリーは踊りも止め、両手をだらんとぶら下げて口を固く閉じ、その場に立っているだけになってしまった。

「……もういいでしょ、止めないの!?」

自分も思考が停止してしまっていたのを、伊織の叫び声でハッと我に返る。手でサインをしてようやく音を止めた。

ステージをよじ登り、共にエミリーの元へ駆けつける。

「エミリー、無理をさせてしまったなら謝る……ごめん」

そのときのエミリーには表情などなかった。焦点の合わない両目でただ地面をみつめて──脱力状態のままじっとしていた。

「エミリー……」

伊織が優しく抱きしめながら背中をさすっている。

「《大丈夫よ。 良くできてた。 あんたは十分頑張ったわ》」
「《……わからないんです》」

エミリーが抑揚のない声で言った。


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